「経済優先」から「生命優先」へ 箱船(はこぶね)の舵を切る。
「はこぶね」というキーワードは、旧約聖書の創世記に登場する“ノアの箱船”の逸話(エピソード)に由来します。
創造主たる神が邪悪な考えを持った人々を大洪水によって滅ぼし、ノアとその家族とつがいの動物たちだけが生き延び、現在の私たちが棲む、地球のあらゆる生物相の始祖となったというストーリー。架空の神話なのか、実在した話なのかはともかく、この逸話は現代社会に生きる私たちにとっても、多くの警句を発しています。
私たち人類は、特に第二次大戦以降、地球史上かつてない規模と速度で地球環境を侵食・破壊し、その資源を消費し続け、地球温暖化や海洋の酸性化、海洋資源の枯渇化や熱帯雨林の減少など、様々な災厄を現在にもたらしてきています。
そしてその影響は、私たちの隣人である多様な生物種にもおよび、 “人新生の大量絶滅*”と言われるほどの猛威を振るい、この勢いが続けば数百年の内には動物相の3/4が死滅するとも言われています。猛スピードで地球上から種が滅び去っていくその速さは、100年前の100倍を超えており、これは人類による自然界の生物相に対する「ジェノサイド(大量殺戮)」とさえ言われています。
また一方では、コンクリートやプラスチックなど、人間が作り出した“人工物”の総重量が2020年に地球上の生物量である1.1兆トンを上回ったという研究論文が発表されました。さらにこの論文では、現在この人工物量は年間300億トン割合で増えており、これは地球上の人々が、“毎週自分の体重以上の人工物を生み出していること”に相当し、この傾向が続けば、2040年までに地球上の人工物量は3兆トンを超えるとしています。
20世紀初頭の「人工物量は生物量のわずか3%程度」だった。それがおよそ100年の時を経て100倍(300%)に達しようとしているのです。
この100年で生物の絶滅速度は100倍になり、同時に人工物の総量も100倍に達する。この数字の一致に、偶然ではない何らかの因果律と、何か啓示的なものを感じるのは、私たちだけではないはずです。
自然界で分解されることのできない人工物が地球上に堆積し続け、その毒性が他の生物だけではなく人間の命をもむしばんでいくのです。
もし現代にも創造主たる神が存在したら、私たち人類を邪悪な者として、大洪水によって滅ぼうそうとは考えないのでしょうか?地球の恵みを受けつづけ、そして生きている私たちが、その警告を聞き入れなかった時、洪水によって滅ぼされることにならなくとも、自らの行いで、自らの破滅をもたらすことになるのかもしれません。
「はこぶね」には、今を生きる私たちが、生き方や暮らし方、価値観そのものを見つめなおし、もう一度地球(自然)の家主が自分たちなのではなく、多くの“生きとし生けるものたちとともに共有し、慈しむもの”であることへの『気づき』となることの願いを込めています。
今こそ、私たちは地球とともに生きる「生命優先」へと大きく舵を切る時なのです。
*地球上では、約5億年の間に気候変動や隕石の衝突などの天変地異によって、5度の大量絶滅があったとされている。そして現代を6度目の大量絶滅期とするものである。ただ過去5度の絶滅と違うのは、人類による地球環境破壊がその要因とされていることである。 |